「CASE」時代のオープンソース(後編)

「CASE」時代のオープンソース

今回は、前回に引き続き「CASE時代のオープンソース」についてのブログです。 本ブログでは「CASE」の中で2番目の頭文字である「Autonomous(自動運転)」とOSSとの関係についてご紹介したいと思います。

※前編をまだご覧でない方は、こちらをご覧ください。https://fossid.techmatrix.jp/oss-case-tips/

 

 

「自動運転」とは︖

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2020年4月1日に自動運転にとって重要な意味を持つ改正道路交通法が施行されました。これによって、「レベル3」の自動運転が解禁されたことになります。では、「レベル3」とはどのようなことができるのでしょうか︖そもそも、自動運転には、下記のようにレベルが0~5の6段階に分かれており、自動運転と呼ばれるものは、このうちレベル3~5のものをさします。

今回の道路交通法改正の主なポイントは、下記の3つです。
① 自動運行装置による走行も「運転」と定義
② 自動運転装置を行う運転手の義務
③ 作動状態記録装置による記録を義務付け

ここで「自動運行装置」とは、自動運転システムのことで、これまで運転手が担っていた認知、予測、判断、捜査のすべてを代替できる機能を持ち、その作動状態を記録する装置を備えたものになります。この自動走行装置を使い、公道を走行することも「運転」と定義されてことにより、レベル3の自動運転ができるようになりました。

米国では、州法による規制の部分が大きく、州によってばらつきがありますが、2016年9月に米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が、自動運転車向けの政策を「Federal Automated Vehicle Policy」を発表し、自動運転レベル2以上の技術に対して自動車メーカなどに情報提供を依頼しました。これをうけ、NHTSAは2017年9月に12項目の推奨ルールを規定した製造者向けのガイドラインの改訂版「自動運転システム2.0」、2018年10月には、自動運転政策やプログラム策定の指針となる6原則とその実行にあたっての5戦略を提示した「同3.0」を発表しています

 

 

ティアフォー社の沿革

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ティアフォー社は、名古屋大学発の自動運転スタートアップとして、2015年12月に設立されました。当時名古屋大学では、オープンソースの自動運転ソフトウェアである「Autoware」の開発を進めており、「Autoware」のさらなる開発を普及のために事業化に至ったそうです。その後、2017年12月には遠隔制御型自動運転システムの公道実験を国内で初めて実施し、自動運転レベル4(高度運転自動化)の無人運転に成功し、近距離移動を目的とする完全自動運転の小型電気自動車の開発など、自動運転技術の開発と実証実験を推進してきました。

 

※赤字:完全自動運転

 

 

「Autoware」とは︖

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「Autoware」は、2015年8月に名古屋大学、長崎大学、産業技術総合研究所などが取り組んだ「市街地の公道での自動運転のために開発されたもので、その後、オープンソースとして公開されました。Linux(Ubuntu)とROSをベースにしているため、車両やセンサーなどの既存の製品を組み合わせるだけで、短期間で自動運転システムを構築することができます。
下図に「Autoware」の構成を記します。各種ハードウェアの情報をOSやミドルウェアである「ROS」を経由して入力として、各種アプリケーションがノードとして動作するように設計されています。

「Autoware」には、下記の機能があります。

2018年9月にティアフォー社は、Autowareを実装した自動運転システムユニット「AIパイロット」を製品化しました。この製品は、商用施設内や市街地郊外の短距離移動、工場・倉庫内での物流搬送を支える低速自動運転車向けに、自動運転に必要となるセンサー(LiDARやカメラ、IMU、GPS等)、コンピュータデバイス、各種ハードウェア、ソフトウェアをすべて一体化した量産型システムユニットで、2019年1月に本格的な販売を開始しました。
事前にキャリブレーション済みのLiDARやカメラ等のセンサー類を一式まとめた筐体を車体ルーフに取り付け、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware 」 がインストールされたコンピュータデバイスと接続することで、短期間で自動運転車を構築することができるようになります。また、通信機器のサポートも用意されており、走行データをモバイル通信やWiFi通信でサーバーにアップロードすることや自動運転に必要な3次元地図データをティアフォーが提供するクラウドサービスからダウンロードすることも可能です。

トヨタ自動車が自動運転EVのコンセプトモデルとして開発している「e-Pallete」に「Autoware」が採用されました。「e-Pallete」は、2018年1月に米国ラスベガスで開催されたCES(家電見本市)で発表されたコンセプトカーで、豊田社長が「自動車会社からモビリティカンパニーへの変革」を象徴する重要な車両です。採用の決め手は、「豊富な実証実験」ということで、日本国内での地方を中心に10万キロを超える実証実験の他、海外でも10ヶ国で実施されています。

また、2018年12月には、自動運転OSである「Autoware」の業界標準化をめざし、米国の自動運転システム開発のスタートアップであるApex.AIおよび英国半導体設計大手「ARM」を支援する団体であるLinaroと共同で「The Autoware Foundation(AWF)」を設立しました。AWFはAutoware.AI、Autoware.Auto、Autoware.IOという3つのカテゴリの中で、Autowareに関する種々のプロジェクトを発足させ、発展させていくための非営利団体です。Autoware.AIは、2015年から続く従来のAutowareプロジェクトを踏襲するカテゴリであり、主に研究開発用途として国内外で既に100社以上、30種類以上の自動運転車両に導入されています。Autoware.Autoは、Autoware.AIを機能安全の観点から見直し、次世代のRobot Operating System(ROS)であるROS 2フレームワークを用いて再設計された新しい車載用Autowareの開発に関するカテゴリです。Autoware.IOは、Autoware向けの様々なECU、アーキテクチャ、車両制御インタフェース、サードパーティ製ソフトウェア、ツール関係を取りまとめるカテゴリになります。

2019年5月にOSSの自動運転OS「Autoware」を開発する株式会社ティアフォーが「ROS2」の開発チームに加盟したという発表をしました。加盟したのはROS 2の開発チームに相当する「ROS 2 Technical Steering Committee」(ROS 2 TSC) 。ROS 2 TSCは自動運転を含む幅広いロボット技術などを開発する企業や研究機関で構成されており、今後ティアフォー社は開発や管理・運営に参画し、自動運転技術でROS 2 TSCに貢献していくことになります。

 

 

 (*1)本文中記載の会社名、商品名、ロゴは各社の商標、または登録商標です。

 

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  第1弾!「OSSガバナンスを社内構築するためのヒント」
  第2弾!「組み込みソフトウェアにおけるOSSを活用する方法」
  第3弾!「CASE時代のオープンソース(前編)」
  第4弾!「CASE時代のオープンソース(後編)」
  第5弾!「ロボットを動かすオープンソース」
  第6弾!「OSSライセンスコンプライアンス確立の傾向と対策」

ソニーグループ様が語る!組織的なOSS管理を担うOSPOとは~サイバーセキュリティ対策の強化とSBOMの最新動向~

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